HISTORY
~スイスの小さなアトリエから始まる
160年の物語~
フラー・ジャコーの歴史
1858年、ひとりのゴールドスミス(貴金属細工師)が、ジュネーブで宝飾店を開きました。店主の名は、ジャン・ジャック・アルベンツ。
その後しばらくして、彼は、ライン河に臨むスイスのシャフハウゼンにアトリエを備えた小さな宝飾店を構えます。世界最高の手工芸技術を誇るフラー・ジャコーの歴史が幕を開けた瞬間です。
彼がシャフハウゼンを選んだのは、この地が中世以来“宝飾の街”として金属工芸が盛んであり、同時に有能なクラフトマンを見つけやすいという稀有な環境を見極めたからでした。彼の優れた先見性、独自の創造性、そして高い技術力は名声を築き、アルベンツの宝飾店は、開店後わずか1年にして10人もの職人を抱えるまでに成長しました。
アルベンツ一族が真摯に打ち込み、成長させた宝飾事業は、アルベンツの美学と確かなクオリティと共に一族の古い友人であるフリッツ・フラーに引き継がれたのです。1943年フラーはやがてルシェンヌ・ジャコーと結婚。世界的に知られる高級宝飾店「フラー・ジャコー」という現在のブランド名を誕生させました。創業から数えて一世紀半越の歴史を持ち、ジュエリーへの情熱とそのこだわりは今なお継承されています。
和暦でいうと安政5年、日本は江戸時代でした。この年、日米修好通商条約をはじめとする通商条約が多数結ばれ、徳川家茂が第14代征夷大将軍に任命されました。これらの出来事を発端に起こった幕府への反発に対し、江戸幕府は「安政の大獄」とよばれる弾圧を行い、鎮圧を図りました。また、福沢諭吉によって慶応義塾大学の前身である「蘭学塾」が創立されるなど、世の中が大きく動いた年でもあります。
三日月の形が特徴のレマン湖のほとりに位置し、湖の対岸のフランス領の町々の後方に、モンブランをはじめとしたアルプスの雄大なパノラマを眺めることができます。市内は、国際司法裁判所をはじめとする国際機関の本部が多数所在していて国際色豊か。また、郊外には国際空港があり、観光都市としても有名です。精密機器などの産業が盛んで、年に一度国際時計見本市が開かれるなど時計や宝石取引の国際的中心地でもあります。ジュネーブは金融の中心都市としても世界的に有名ですが、近年はIT関連企業の進出により大きく変化しようとしています。
チューリッヒの北50kmに位置しドイツとの国境近くにある人口約7万人のシャフハウゼンは中世の街並みを今に残す静かで美しい古都です。小さなこの街は、中世より近隣の山々から産出される半貴石を加工し、教会に納める宝物を作るゴールドスミスが集まってきたため、宝飾の街としてヨーロッパ中に知られるようになりました。加えて、街を流れるライン河はドイツとイタリア、フランスとオーストリアをつなぐ交通の要所としても繁栄しました。街の近郊にはライン河の中で一番大きな滝「ラインフォール」があり、ライン河を通る船は進路を阻まれるため一度荷揚げをしなければならず、シャフハウゼンは交易の街として栄えました。
シャフハウゼンと日本人
―有島武郎
若くして白樺派のリーダー格となった日本の文豪「有島武郎」。彼は、大学を卒業し米国留学を終えた後、欧州各地を訪れています。訪欧中に彼は短い時間でしたが、スイス シャフハウゼンにも滞在しています。彼がシャフハウゼン滞在中に宿泊したホテルで、スイス人の娘と恋に落ちました。彼女の名前はティルダ。有島が滞在したホテル「シュバーネン(白鳥)」、の一人娘でした。
彼女への想いは、帰国を目前にした最後の滞在地ロンドンからのティルダに宛ての手紙に記されています。
≪Alas ! If there was a land in future life, where each man and woman stand bare, able to disclose all feelings he or she holds, where also there is no nationality, social prejudice, absurd tradition, and the ability is judged according to its real value. Then I will meet you there≫
―ああ! もし、いつの日か男性も女性も衣服をまとわず、自分が抱えているすべての感情をさらけ出すことができ、国籍も偏見もばかげた伝統もなく、能力がその真価によって判断される、そんな土地があったなら。あなたに会いに行くのに。―
有島は帰国後、北海道で教職に携わりましたが、その後小説家となり、1923年6月に永眠しました。その間、約16年の間、ずっとティルダとの文通は続いていました。送られた手紙は35通、ハガキは45通にものぼっています。
〔参照〕
Verena Werner「Tilda & Takeo A Friendship Spanning East and West」
ISBN/ISSN 3-905092-01-8